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新たな日常への挑戦

新型コロナウイルス感染症COVID-19の影響により、2020年春頃より様々な産業の動向や日々の生活が急遽大きく変化しました。「社会の中で、社会のために」を憲章とする私たちは、まず、今何が起こっているのか現在の社会変化を整理しました。そして、当面の間ウイルスとの共存を求められる「With コロナ社会」、ある程度収束し社会全体が変化する「Post コロナ社会」に向けて、人と共栄する情報技術を扱う情報・人間工学領域が貢献できることを議論しました。

この社会変化をサスティナブルにする新たな日常を目標にしたとき、情報・人間工学がどのような貢献ができるかを検討した結果が本提案です。提案は、

  • 遠隔で仕事をする「テレワーク」
  • 遠隔で生活をする「テレライフ」
  • 人と人との間隔を保つ「ソーシャル・ディスタンシング」
の3つにまとめました。感染防止と経済活動を両立させる新たな日常を実現するための技術開発提案です。

COVID-19を契機とした社会変化は、デジタル化社会や分散型社会の促進につながるものです。このような社会変化は、少子高齢化や技術開発が進む未来で起きることだったのかもしれません。私たちは、“新たな日常”で求められる技術開発を提案するだけでなく、少子高齢化に強い社会や、新たなビジネス創出につなげていきたいと考えています。

コロナ禍による社会変化

2020年6月現在、感染はなお世界中で拡大を続けています。一方で現代は、社会の都市化と共に人が集まって活動する高密度化や、経済発展と共にモノや人がより活発に動く社会が発展してきました。 オフィスで集まることを前提とした働き方は変化を求められ、物流の急激な変化などこれまでの統計に基づく業務予測が成り立たない状況が発生しています。 学校やショッピングモールなどの生活の場、映画館やライブ会場などの娯楽施設も、集まることを前提とした施設です.密閉・密接を避けることが求められ、生活様式は大きく変容しました。同時に、こうした変化の一部は永続的になると予想されています。

仕事や生活など様々な場面で大きな変化を求められる今、何が起きているのでしょうか。

産業・働き方

  • テレワーク,事務手続き電子化の推進 ・・・テレワーク実施率:13.9%(2017)⇒97.8%(2020)[総務省][経団連]
  • 給食や飲食店向けの食材余剰
  • 製造業や物流の急激な需給変化 ・・・宅配便:5月対前年比19.5%増[東洋経済]
  • 観光業、イベント・文化・スポーツの活動縮小 ・・・世界の観光客数7割減[日経]

生活

  • 学校休校、オンライン授業 ・・・緊急事態宣言で小中高86%休校[NHK]
  • 飲食等のデリバリー利用拡大
  • 移動自粛、自宅で過ごす時間の増加 ・・・都営地下鉄利用者数推移[東京都]

医療

  • 医療体制の逼迫、院内感染対策の推進
  • マスク、ガウン、消毒液等の物資不足
  • 通院の自粛と必要性判断の難しさ
  • 通院前のオンライン問診,オンライン診療の推進

これらを一例として、仕事や生活など様々な場面で大きな変化を求められる今、新たな日常へ向けて、情報・人間工学で貢献が可能な技術を以下のようにまとめました。

感染症の時代

1980年にWHOが「天然痘根絶宣言」を発表、人類の感染症への完全勝利を確信しました。しかし、皮肉なことにわずか1年後に免疫システムを攻撃するHIV、2010年にH1N1亜型、2019年にSARS-CoV-2が登場、さらに強毒性H5N1型が近い将来発生する懸念があります。特に、SARS-CoV-2やH5N1の死因はサイトカイン・ストームなる免疫機能の暴走で、健康な若い層にも脅威です。「手当」と言う従来の医療や看護は感染リスクを増大させるため、「タッチレス」な医療や看護が求められます。新型ウィルス感染症には、新たな感染予防策、スタンダード・プリコーション・感染を防ぐ患者管理の方法が求められます。また、サイトカイン・ストームと言う増悪化原因に対し、ワクチンや抗ウィルス薬ばかりでなく、患者心理や環境なども含めた免疫機能の評価・管理手法が求められます。現代は国家や社会の姿を変える「感染症の時代」と言えます。

テレワーク(遠隔で仕事をする)

現在のPCを使った業務や画像と音声による遠隔会議にとどまらず、実作業を伴う仕事や対人サービスなど、モノや人とのインタラクションの遠隔化を実現し、働く場所の制限を緩和します。

  • (テレ会議)対話相手の心身状態を生理指標や表情動作により認識し、それに応じた対応を可能にする。ジェスチャの認識やモックアップの3次元計測により、ジェスチャを使った対話や3次元データの共有を可能とする。非同期時の行動履歴の重畳により時差を克服する。
  • (テレ作業)遠隔操作技術・3次元環境計測技術・意図理解技術により、工場・建設現場・農林水産業等の物理的な作業を必要とする現場での作業を遠隔から実施可能とする。特に、高齢者・障がい者による操作や地域・海外からの操作を可能とする。
  • (テレ技能伝承)VRにより遠隔環境を呈示しウェアラブルデバイスにより動作や触覚等の情報を伝達して、医療機器操作方法・介護作業・熟練作業等の技能の伝承を行う。
  • (テレクリエーション)人と人のCo-creativity支援技術や人とAIのCo-creativity支援技術により、分散環境下において音楽や映像等の鑑賞・創作を可能とする。
  • (サービス類型とデザイン手法)拡張テレワークに対応したサービスの類型化と相性の良い関係マップの開発・サービスプロセスの再設計により、対人サービスの生産性を高める。
  • (テレワーク多職種連携)多職種間のアセスメントデータの読み替えや要介護の自動判定技術の開発により、多職種が集まって行う要介護認定審査会を不要とする。
  • (テレワークの本人認証)動的なアクセスを可能制御を可能とする鍵管理技術本人認証や権限移譲等の証跡保存技術により、ネット上で安全で柔軟な本人確認・取引を実現する。
  • (テレワークのストレスマネージメント)移動の制限によるフラストレーションの構造・機械学習による脳波の解析や運動に関わる神経機構の解明・ライフログの自動計測等により、テレワークによるストレスの状態把握と健康管理・改善介入を可能とする。
テレワーク(遠隔で仕事をする)

テレライフ(遠隔で生活をする)

PCを介したインターネットショッピングやビデオ通話にとどまらず、臨場感のある空間共有など、遠隔であっても人同士の関係性が希薄にならないための仕組みを実現します。

  • (テレショッピング)遠隔インタラクション支援技術・店舗のVR表現・自動接客機能・決済処理技術等により、実店舗で遠隔からショッピングをすることを可能とする。生産ネット通販システムにより、オンデマンドで多品種少量の製品の設計・生産・搬送を可能とする。価値評価構造の計算モデル・実データの収集と分析により、実店舗と等価なWeb販売システムを開発・実店舗とWeb店舗のシームレスな連携を実現する。
  • (テレトレーニング)身体運動計測・解析や運動機能変容予測・最適介入デザイン・マルチモーダルな感覚提示により、複数のトレイニーの遠隔での運動トレーニング・指導・成果データ管理を可能とする。
  • (テレ観光サービス)ロボットやドローンを用いて計測した360度画像から臨場感のある視野画像を生成することにより、遠隔からリアルな観光地の訪問を実現する。
  • (テレ教育)生徒の視線計測・視覚認知により興味・やる気等を評価することにより、身体的な負担が少なく・実教室での授業に近いテレ教育を実現する。
  • (代理出席アバター)人に近いヒューマノイドロボットの遠隔操作により、結婚式・卒業式等のイベントへの出席を代行する。
  • (バーチャル里帰り)触覚や嗅覚刺激呈示を行うVR技術や全身運動を代行するヒューマノイドロボットにより、バーチャルな里帰り・遠隔スキンシップを可能とする。
  • (人・地域・社会がつながる介護サービス)行動認識や感情認識・自動対話技術により要支援者の人間状態を認識することにより、遠隔から要支援者の自立生活を支援する。見守り技術・拡張テレワーク技術・健康管理を地域でプラットフォームすることにより、地域での介護支援を実現する。
テレライフ(遠隔で生活をする)

ソーシャル・ディスタンシング

人の行動や混雑把握によるリスク低減など、経済活動やコミュニケーション機会を落とさずに人の行動変容を持続的にサポートする仕組みを実現します。

  • (人流計測・記録・分析)人と人の通信履歴ログ・カメラやドローン等による外部からの計測により人流を計測・記録・分析することにより、人の密度・隣り合う人との物理的距離等をモニタリングする。感染者数の予測・感染発生時の濃厚接触者の同定・外出自粛時の人の活動・行動量変化の要因分析を行う。例えば、物流倉庫で作業者の位置・疲労度・バイタル等をモニタリングし、ソーシャルディスタンシングと作業効率の両立を図る。
  • (アバターロボットを利用した感染防止)センサによるバイタル計測と遠隔操作による遠隔看護、遠隔操作ロボットによる救急対応や介護作業、自動運転車椅子による病院・介護施設内・近距離屋外の移動、ゴミ収集作業等の代行により、タッチレス作業を実現する。
  • (緊急時の医療ネットワーク)地域の医療施設の状況・軽症者用宿泊施設の状況・自宅療養の情報等を一元管理する医療ネットワークの構築により、医療情報を迅速・正確に取得することを可能として医療崩壊回避の一助とする。
  • (フェイク情報に惑わされないセキュリティ)事案進行中の状況分析・偽造改変が困難なハードウェアによる信頼の基点の実現・秘匿通信の負荷軽減・セキュリティ保証・適応進化型のロジスティックモデルによる「域値」の動的管理によるリスクマネジメントにより、事案の進行中のフェイク情報に惑わされないための情報分析・セキュリティ評価・サイバーリスク評価モデルによるマネジメントを可能にする。
ソーシャル・ディスタンシング

関連情報

 

本ページの情報に関する連絡先

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 情報・人間工学領域研究戦略部

メール:ith-liaison-ml*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
話:029-862-6028
 

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究戦略部 研究企画室

メール:rpd-ai-info-ml*aist.go.jp(*を@に変更して送信下さい。)
 

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